2013年8月12日月曜日

不起訴見通しの報道と告訴団の見解

「福島民友新聞」(8/10)30面『「強制捜査せず」に不満』の記事内に、団長のコメントが掲載されましたが、記事に重大な誤りがあったため、福島民友新聞社に対して、厳重抗議を致しました。
 この記事は、「原発事故 全員不起訴へ」(朝日新聞8/9、この記事の後半に全文と河合弁護士のコメントあり)の報道について、電話でコメントを求められ、団長が答えたものでした。
 記事では、『武藤団長は「今は業務上過失致傷といえないとしても、原発事故による甲状腺がんなどの発症リスクも否定できない」と懸念を…』と書かれていますが、これは「今は業務上過失致死傷といえない」と「検察」が判断した、という報道についての反論のコメントであり、告訴団が「業務上過失致死傷」に問えないと考えている、と読者に受け取られかねない記事となっていることに抗議致しました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


原発不起訴へで「強制捜査せず」に不満

(福島民友新聞 8月10日(土)12時43分)

 東京電力福島第1原発事故をめぐって、検察当局が業務上過失致傷容疑などで告訴・告発された当時の東電幹部や政府関係者らを不起訴処分とする方向で検討していることが分かった9日、福島原発告訴団の武藤類子団長は福島民友新聞社の取材に応じ、「強制捜査せずに、不起訴とすることは考えられない」と不満を漏らした。
 同告訴団は昨年6月、同社や国の幹部、放射線の専門家らについて、業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発状を福島地検に提出した。武藤団長は「今は業務上過失致傷といえないとしても、原発事故による甲状腺がんなどの発症リスクも否定できない」と懸念を示した。「多くの人が東電の責任追及を望んでいると思う」と捜査の徹底を求めた。
 福島地検は「特定の事件について回答は差し控える。しかるべき時期に説明したい」とした。
 東電は「刑事告訴についてコメントは控える」とコメントした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


原発事故、全員が不起訴へ 東電前会長や菅元首相ら

(朝日新聞 2013年8月9日(金)5時55分)

 東京電力福島第一原発の事故をめぐり、検察当局が、業務上過失致死傷などの疑いで告訴・告発された東電幹部や政府関係者ら全員を、不起訴処分にする方向で調整していることが8日、わかった。今月中にも処分を出す見通しだ。
●巨大津波の予測、困難と判断
 菅直人元首相に事故後の対応などで説明を求めたことも、関係者への取材でわかった。菅元首相は告訴内容を否定するとみられ、検察当局は説明の結果も踏まえて最終判断する。
 原発周辺の被災者ら計約1万5千人は、入院患者が事故直後の避難途中に死亡し、住民が被曝(ひばく)して傷害を負ったなどとして、震災以降、断続的に告訴・告発した。対象は菅元首相のほか、東電の勝俣恒久前会長、清水正孝元社長、原子力安全委員会の班目春樹元委員長、枝野幸男元官房長官と海江田万里元経済産業相ら数十人で、検察当局は昨年8月に受理。東京、福島両地検に応援検事を集め、事情を聴いてきた。
 検察当局は、事故と死亡との因果関係は「ないとは言い切れない」とし、「被曝による傷害」は、現時点ではそもそも認定できないと判断。その上で、原発の電源をすべて失い、原子炉が冷却できなくなるような大規模な津波を予見できたか▽予見の程度に見合う対策をとったか――などの点で捜査を進めた。
 その結果、今回の規模の大地震や津波は、発生以前に専門家の間で予測されていたとは言えず、原子炉格納容器の圧力を下げるベント(排気)の遅れが原発建屋の水素爆発を招いたとする告訴内容も、放射線量が高く、停電したことが作業遅延の原因と判断。菅元首相や東電幹部らの刑事責任を立証するのは、困難と結論づけるとみられる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

河合弁護士による投稿

何の津波対策もとらなかった東電免責はあり得ない

河合弘之(弁護士・福島原発告訴団弁護団代表)

 去る8月9日本紙朝刊に、月内にも福島原発事故について、我々が行っていた告訴・告発について不起訴処分がなされる方向で検察庁が調整に入っているという報道がなされた。記事において不起訴理由とされている点を取り上げ、告訴人らの考えを述べ、検察官・検察庁の再考を強く求めたい。
 本紙報道によると不起訴の理由は、「事故と災害関連死との因果関係はないとは言い切れない。今回のM9規模の大地震と津波は、専門家の間で予測されていたと言えず、事前に想定できたのはM8.3までだった。巨大津波の発生と対策の必要性を明確に指摘していた専門家も少なかった。東電が2008年に津波高さ15.7メートルと試算していた点についても、専門家の間で賛否が分かれ、東電も『実際には起きないだろう』と受け止め、対策を検討したものの、具体化は見送った。東電の津波対策は十分ではなかったものの、刑事責任を問うことは困難。」とされている。
 検察官の立脚する予見可能性の議論には次の疑問がある。15.7メートルの津波は東電内部の検討において確かに試算されていた。この原発の想定津波高はわずか6メートルであった。この地域でマグニチュード8.3程度の地震と高さ10メートル程度の津波が来ることは、地震と津波の専門家なら、だれもが頷く普通の想定であった。
 電源喪失を防止するための対策としては、防潮堤の設置だけでなく、外部電源の耐震性強化、非常用ディーゼル発電機とバッテリーの分散と高所設置等、構内電源設備の耐震性,耐津波性の強化など多様な措置がありえた。
 浜岡原発においては、老朽化した1,2号機は耐震補強を断念し、2008年には廃炉の決定がなされていた。福島第1原発1-3号機についても、同様の措置は十分あり得た。にもかかわらず、東京電力は一切何の対策もとらなかった。予測されたレベルの地震と津波対策を講じたにもかかわらず、それが不十分であったわけではない。東京電力自身が、原子力改革特別タスクフォースの報告において、結果を回避できた可能性を認めているのだ。
 事故以前の東京電力社内のすべての証拠を収集し、どのような検討がなされていたのかを解明するには、強制捜査による関係資料の押収が欠かせない。このことは、捜査機関として当然の責務だ。検察庁は、テレビ会議録画や社内メールなどの任意提出を受けただけで、今日まで強制捜査を実施していない。多くの市民の生命と生活、生業を根こそぎ奪ったこの事故について、強制捜査もしないで捜査を終結するような事態は絶対にあってはならない。検察内部の良心が検察庁を揺り動かし、強制捜査の実施と起訴が実現することを心から願ってやまない。

0 件のコメント:

コメントを投稿